――― 宵の皓絲 ―――
《その後編・弐》





§




「………ふぅん、なるほど、ね」

 端的すぎるその内容に、友雅は口元に指の背を当てながら、なにやら思案する風に腕を組む。


( ――― 「今宵一晩」、とはね)


 式神の鳥も飛び去ってしまった、という事は返事は不要という事か。

 友雅は思わずくすり、と小さく笑みを漏らす。するとそれを目敏く聞きつけたイノリが苛立たしげに噛みついた。

「おい友雅! 一人で笑ってねーでなんて書いてあったのか教えろよっ」
「ああ…すまないね。神子殿は泰明殿が見つけたそうだよ。だが神子殿は少々穢れに触れたらしい。それを祓う為に、今夜は左京一条の邸で預かるそうだ」

 さらりとそう説明すると、その場にいた者達は、一様に安堵したような表情を浮かべた。
 どうやら、皆あっさりとその文の内容を信じたらしい。

「あいつ、また泰明に捕獲されたのかよ…」
「…天真。口を慎め」

 ややあって、前髪を荒っぽく掻き上げながら、…はぁっ、と呆れたように零す天真を頼久が苦笑しながら静かに窘める。

「なんだあ? あかね、もう見つかってたのか」
「良かったぁ。泰明さんが一緒なら安心だね」

 人騒がせなヤツ、と気が抜けたように溜息をつくイノリの横で、詩紋が無邪気な笑顔でそう言いながらその胸をなで下ろした。
 心配のあまり簾中から姿を見せていた藤姫も、ほうっと小さく息をつく。
 そんな皆の様子を眺めながら、友雅はひとり、肩に零れる髪の一筋にその指先を絡め、なにやら楽しげに瞳を細めた。








【 続. 】






2004.12.18(SAT)転載.

< Written by Yuki Kugami. 2004 -. / Site 【 月晶華 】 >





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