――― 宵の皓絲 ―――
《その後編・壱》





§




 ――――― その頃。

 またもや姿を消した神子を案じた藤姫からの急を告げる文によって、土御門邸には八葉達が顔を揃えていた。

 だが、常ならば神子に何らかの異変があれば必ず、まるで予期していたかのように真っ先に現れる泰明の姿は其処に無い。
 逸る天真や今にも飛び出していきそうなイノリらの雰囲気に押されるように捜索の相談を始める面々の傍らで、狼狽える藤姫を宥めながら、友雅は内心、その事を訝しんでいた。

 と、その時。

 ひらり、と一羽の白鳥が闇夜を縫うように現れ、神子の房の前へ集っている彼らの側へと舞い降りた。
 突然現れたそれに、その場に一瞬、緊張が走る。

「…これは……泰明殿の式神、…ですね」

 じっと、何かを窺うように紫紺の瞳でそれを見つめていた天の玄武・永泉が、はたと気づいたようにそう告げる。

「何か嘴にくわえているようです。…もしや泰明殿からの文では…」

 永泉の言葉に、その隣で同じように鋭く視線をやっていた友雅はその鳥に近づくとそっと文を取り上げた。友雅の手に文が渡ったと見るや、式神の鳥は一声啼いてあっという間に夜空に舞い上がる。

 それをちらりと横目で見送りながら、友雅は文を開いた。
 何の飾り気もない真っ白な料紙に書き付けられていたのは、黒々とした墨の色も鮮やかな流麗な手蹟。
 …が、その文面を目にした友雅は、普段滅多な事では動じない彼にしては珍しく、一瞬、動きを止める。









神子は穢れに触れ、気を乱した
 祓い浄めねばならぬ故、今宵一晩、預かり置く


 ――― 泰明








【 続. 】






2004.10.15(FRI)転載.

< Written by Yuki Kugami. 2004 -. / Site 【 月晶華 】 >





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