§――― ゆるやかに。そして密やかに。触れてくる、もの。…近くから。そして遠くから訪なう、柔らかな…。けれど何処か切ない、その空気。それは時に彼女を誘い、時に彼女を呼び求める。…まるで、寄せては返す、波のように。捉えようとしても、指の合間をするりと擦り抜ける。そして。…――― ぽつん、と。伸ばした指先に温かなものが零れ落ちるような感覚を残し。総てが、靄の彼方へと消えていった…。§