月の情熱
夕暮れの渡殿・・・・・・・・・
柱にもたれ、あかねはぼんやりと夕暮れ色に染まる西の空を眺める。
この京という世界に召還されてから、すでに一年・・・・・・・・・・・
長かったような・・・・・・短かったような・・・・・・・・・そんな一年間だった。
鬼との戦いを無事に終え、そして龍神の神子としての勤めを終え・・・・・・・しかし、あかねは今だこの世界へと残っている。
彼のもとに残るため・・・・・・・・
彼と一緒に生きていくため・・・・・・・・・・
この先ずっと・・・・・・彼の傍にいたいから・・・・・・・・・・・・
◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆
「友雅さんって、普段はいつも何してるんですか?」
物忌みの日、その日の供として呼んでいた友雅にあかねは尋ねる。
そんなあかねの問いに、友雅はあかねを見つめ『ふっ』と微笑んだ。
「おや、神子殿は私に興味を持ってくれているのかな?」
「べ、別にそういうわけじゃ・・・・・」
この京の世界に来て、あまり日が経っていなかった。龍神の神子であるあかねを守る立場として、いつもあかねと共に京の散策に出る八葉たちのことも、あまり知らない自分に、こんなことではいけないと、あかねはよくこうして質問をしていた。
「私はあまり人に物を教えることは苦手でね。」
そう言って友雅は妖艶な笑みを浮かべる。
そんな友雅をあかねは見つめた。
それって・・・もったいぶってんの・・・・・?
あかねの脳裏にふとそんな言葉がよぎる。
『え〜、そんなこと言わないで教えてくださいよ〜』などと猫撫で声で、また聞いてくるのを待っているんだろうか・・・・・それとも、本当に自分のことを聞かれるのが嫌なのか・・・・・・・・・・・
あかねは、一瞬悩む。
実際、友雅についての噂は、あまりいいものを聞かなかった。
たくさんの恋人を作り、そして決して恋愛に執着などしない。
相手が本気になってしまうと、まるで潮が引いていくかの如く、すっとその身を引く。
友雅と一時期でも関係のあった者たちからは、『冷たい人』と称されているようだった。
「友雅さんって・・・・どうして、そんなにたくさんの恋人を作るんですか?」
ちょっとした疑問・・・・・しかし、言った後で、あかねはやばいことを言ってしまったと後悔した。
口元を押さえ、恐る恐るあかねは友雅を見る。
「神子殿は、随分と単刀直入に聞かれるのだね。」
しかし、あかねの心配とはうらはらに、友雅は苦笑しながらあかねを見つめる。
「いや・・・・ごめんなさい・・・・・」
あかねはそんな友雅にペコリと頭を下げた。
「そうだね。なぜ・・・と聞かれると難しいかな?」
そう答える友雅をあかねは不思議そうに見つめる。
「月の姫を探しているんだよ。」
「月の姫?」
友雅の言葉に、さらに不思議そうに尋ね返すあかねに、友雅は微笑みかける。
「桃源郷の月の姫だよ。『桃源郷に輝く月』・・・・・それは私の情熱だからね。」
友雅の言葉の意図しているものはわからなかった。
しかし、そう言って優しく微笑む友雅を見つめ、何を聞かずとも、友雅のことが一瞬わかったような気がした。
何がわかったの・・・・・?
そう問われれば、答えに迷うかもしれない。
わからない・・・・・わからないが・・・・・・・・・今まで周りの人間からいろいろと聞いていた友雅の印象とは違って見えて・・・・・・・・・・・・・
あかねは友雅をじっと見つめる。
友雅はそんなあかねの肩に手を添え、身を屈めると耳元で囁いた。
「もしかしたら、神子殿が私の月の姫なのかもしれないよ。」
「なっ・・!」
耳元で囁かれる艶やかな声にあかねは顔を真っ赤に染めた。
そんなあかねに、友雅は珍しく声をあげて笑った。
「もう!からかってばっかり!!」
「神子殿は本当に可愛いね。」
そんな友雅の言葉に、あかねはぷぅっと頬を膨らます。
「そんな顔をしていては、せっかくの愛らしいお顔が台無しだよ。」
「もういいです!!」
◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆
「月の姫・・・・か・・・・」
友雅と会ったばかりの頃を思い出し、あかねはポツリと呟いた。
あの頃は、まさか1年後の自分がこうして友雅と一緒にいるなどと、思いもしなかった。
第一印象は、あまりよくはなかったのかもしれない。
いつもいつも、口を開けばからかわれてばかりで・・・・・・・・・・・
いつもいつも、子供扱いされてて・・・・・・・・・・・・
どれが冗談でどれが本気なのか、それすらもわからなかった。
でも・・・・・・・・いつの間にか・・・・・・・・・・・・・・・
「あかね。」
その声にあかねは振り返る。
「おかえりなさい、友雅さん。」
そこには渡殿を歩んでくる友雅の姿・・・・・・・・・・・・
夕日を正面に受け、その姿は赤く夕焼け色に染まって見える。
立ち上がり、パタパタと友雅のもとに駆け寄るあかねを、友雅はその腕に優しく包み込んだ。
「ただいま、月の姫。」
友雅はあかねをよくそう呼ぶ。
『月の姫』・・・・・・・・
その呼び名はなんとなく恥ずかしく感じ、友雅がそう呼ぶとあかねはいつも、少しはぶてたりもしていた。
しかし・・・・・・・・
今日はそう呼ばれることを嬉しく感じるのは何故だろう・・・・・・・・・・
1年前に言っていた友雅の言葉・・・・・・・・・・・・
『月の姫を探しているんだよ』
自分は・・・・・・・友雅の月の姫なのだろうか・・・・・・・・・・・・
本当に、そうなれたのだろうか・・・・・・・・・・・・
子供な自分・・・・・・・そして大人な友雅・・・・・・・・・・・・
腕の中でじっと黙り込むあかねを、友雅は不思議そうに見下ろした。
「どうしたんだい?」
そして、あかねはゆっくりと顔を上げる。
「友雅さんの・・・・・・・・」
静かに口を開くあかねを、友雅は優しく見つめる。
「友雅さんの・・・月の姫は・・・・・・・」
『誰なんですか・・・・・?』
『私だって・・・・・・そう思っていいんですか・・・・・・?』
あかねの言葉は止まる。
そんなあかねに、友雅は優しく微笑み・・・・・・・・・・・・
「あかねに決まってるだろう?」
赤く・・・・・・すべてを赤く染める夕日・・・・・・・・・・・・
友雅とあかね・・・・・二人を優しく照らす。
長かったような・・・・・短かったような、そんな一年。
あなたと共に過ごし、幸せな毎日を過ごし・・・・・・・・・・・・
これからの一年も・・・・・・その次の一年も・・・・・・・・ずっとあなたといたいから・・・・・・・・・・
ずっと一緒にいたいから・・・・・・・・・・・・
嬉しそうに微笑み、そして少し照れながらあかねは再び友雅の胸の中へと顔を隠す。
そんなあかねを、友雅は優しく包み込んでいた・・・・・・・・・・・・・
■□ 終 □■
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