月の姫








囁く声音は銀の竪琴
しなやかにのびた大きな腕は私を包む暖かな翼
光を弾いて碧を含んだ、緩やかな弧を描く黒髪
深い深い漆黒の瞳
大きな身体に包まれた時薫る、密やかな侍従の香り




綺麗



全部綺麗

貴方の全てが、何もかも



私はいつも愛してもらって、抱きしめてもらって
あなたの翼に守られて生きているけれど



――――――私は貴方に何をあげられる?何をしてあげられるの?





「友雅さん、友雅さんはこのごろ何か欲しいものはありますか?」

「欲しいもの?そのようなことを聞いてどうするんだい」

「いいから。何かないですか?」

「・・・・・・・・君がそれを聞くの?」

「はい?」

「おいで」

さしのべられた腕に素直に手をのせると、引き寄せられて背中からすっぽり友雅の腕に包まれた。
確かめるように抱きなおして、あかねの髪に口付ける。
柔らかくのびたあかねの髪を一房手にとって、それをくるくると巻いてもてあそんだ。
背中から広がる暖かな体温にあかねは、ほうっ、と息をつく。
一番安心するところ。
一番安全で、大好きな場所。

―――ここにいれば大丈夫。

そう、わけもなく確信できる場所。
あかねは瞳を閉じて友雅の腕に頬を寄せた。
あまやかに薫る侍従の香りと、自らの纏う、やはり侍従の香り。
一つに溶け合って、まるで何もかもが重なってしまったような気になる。
そう、溶け合って。
何もかもが溶けて、一つになる感触。

「―――――大好き」

自然と口をついてでた言葉は、ただ、溢れる想いを言葉にしたもの。
呆れるほど素直な言葉。

「友雅さん・・・・・・・大好き・・・・・・・」

もう一度、今度は確かめるように口にする。
友雅が微笑んで、あかねの頤に指を這わせた。
ゆっくりと、そのまま上向かせる。
瞳があって、互いに微笑んだ。

「どうして急にそのようなことを聞いたんだい?」

「・・・・・・お誕生日でしょう?
だから、何か欲しいもの・・・・・私があげられるものですけど、何かしてあげたいなって。
いつもいつも、私は友雅さんにたくさん貰っているから、だから」

「―――桃源郷の月の姫」

遠い昔に呼ばれた名で囁かれて、あかねは、きょとん、と目を瞬かせた。
瞳を細めて、友雅が腕を回し、あかねの身体を自分の方に向かせる。

「手に入らないと思った月の宮の姫は、あの日、私の手をとり、私のもとにとどまってくれた。
今、君は私を愛してくれ、こうして何かしてやりたいといって微笑んでくれる。
―――――これ以上、一体私に何を望めというんだい?」

「でも、それじゃ。私何もしてないです。友雅さんはいつも私を大事にしてくれるけど、でも」

最後まで言い切る前に唇をふさがれる。
強く、きつく抱きしめて、時々うわごとのようにあかねの名を呼ぶ。
しばらくして、ようやく少し身体を離すと、友雅は熱のこもった潤んだ瞳であかねを見つめた。
深い闇色の瞳が、真っ直ぐにあかねを貫く。
あかねの暗緑の瞳が空中で絡み合って交錯した。

「・・・・・私をこれ以上欲張りにしないでおくれ」

「友雅さん・・・・・・・」

「君の翼を手折って、衣を奪って、この地に繋ぎとめて。
そうまでして微笑んでくれる君がいるだけで、私はとても幸せなのだよ」

「・・・・・・じゃあ、私は友雅さんの翼に守られて生きているのね」

「守り、守られ、君の翼を手折っても、いつも君の背には白い羽が見える。
白鷺のように、自由に大きく羽ばたく君を独占して、抱きしめて眠ることが出来る私の喜びを、君はきっと知らないね」

――――私は生きる道しるべを見つけて、天女をこの手に独り占めをして。


これ以上一体何を望めというのだろう?


友雅はあかねを引き寄せて、もう一度口付けた。
今度は、先程とは違う、深くて、さらに熱のこもったもの。
絡む視線に導かれるように、友雅はあかねの細い体の線をなぞる。
あかねが手を伸ばして、両頬をそっと包む。そして熱で潤んだ瞳で友雅を見上げた。

「―――お誕生日、おめでと、友雅さん」

啄ばむような口付けに、何も考えられなくなる。
友雅はきつくあかねを抱きしめた。


もう離してあげられない

君が私の全てだから

君だけが私の道を照らす月の姫だから


「―――ありがとう、あかね・・・・・・・」





囁きは闇に消える。
闇は静かな夜を連れてくる。













―――ささやかな灯火の下、恋人たちの夜を









おわり
お誕生日おめでとう友雅さん!!大好きですvv
 
 
 
 
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