「いーぬは喜び庭駆け回り ねーこはこたつで丸くなるー♪」 何気に口ずさんでみたりする。 自分は犬派だと思う。 雪を見ると妙に心が浮き足立って、ついはしゃいでしまう。 ・・・でも、猫派・・・と言われると、あながち否定は出来ない。 何故なら、寒がりだから。 あかねは両手を口元に寄せ、息を吐いて温めた。 ちらちらと降り積もる雪を御簾の隙間から覗きながら、ぶるりと身震いする。 昨夜から降り続いていた雪は、目覚めると視界を真っ白に変えてしまっていた。 冷たい空気がピンと張り、肌を突き刺すようである。 「う〜〜・・・、やっぱり暖房とかセーターとかないと、寒いなぁ」 ゴシゴシと手を擦った。 カイロの代わりの温石や炭櫃はあるが、やはり現代の機器には劣るもの。 「動けば少しは温かくなるかな?」 あかねは白い袿を一枚羽織ると、立ち上がって庭へと下りていった。 真新しい雪に足跡をつけながら、一度キョロキョロと辺りを見回すと、ダッシュで庭を横切る。 当然雪に足を取られもしたが、何とか転ばずに門の所まで辿り着いた。 「流石にこんな雪の日は、門番さんもずっと外にはいないよね〜」 ペロリと舌を出して悪戯っ子そうな瞳を浮かべる。 あかねは楽々と門を潜り、外へと出て行った。 土御門通りを北上しながら跳ねるように走っていった。 流石に人通りは無い。 初めのうちは手足が冷たくなり、寒さに身が震えたが、動いていると次第に体温が上昇してきた。 もっとも、両手はしもやけの様に真っ赤になっていたが。 「あ、川の水も氷が張ってる・・・」 あかねは側を流れる川に近づき、ゆっくりと土手を降りる。 流れ行く川の水は凍ってはいないものの、端の水溜りのようになったところは表面が薄く氷が張っている。 指で突付くとパリッと音がして割れた。 「氷が張るって事は、やっぱり今日ってすごく気温が下がってるんだ」 「分かっているなら、何故大人しく邸に居ない?」 「それは好奇心というか・・・・・・」 あかねは答えかけて、はたと言葉を止める。 恐る恐る振り向くと、泰明が腕を組んで土手の上に立っていた。 その表情はいつもに増して無表情で、・・・というより、不機嫌そうである。 「えーっと、あのー・・・」 あかねは慌てて言い訳を考える。 泰明は大きくため息をつくと、あかねに向かって手を差し伸べた。 「とにかく、そこから上がって来い」 「・・・はい」 あかねはしぶしぶと土手を上がった。 路端に上がると泰明に手を引かれ、そのまま思いっきり引っ張られる。 「うわっ」 あかねは思わず目を瞑ると、次の瞬間、泰明の腕の中に包まれていた。 「何故供もつけずに外を出歩くのだ。いくら昼間で、雪が積もって人通りがないといっても、女の一人歩きなど危険だ」 「ごめんなさい〜」 「まあ、神子に言ったところで三日ともつまいが・・・」 あかねはぐっと息を詰めた。 確かにその通りだ。 その通りだが・・・。 いくらなんでも、そんなにはっきりと言う事はないんじゃない!? あかねはぷうっと頬を膨らますと、泰明を押しのけて腕から逃れた。 「別に平気です」 あかねはあからさまに泰明から顔を背ける。 泰明はあかねをじっと見ながら呟いた。 「怨霊がでるかも知れぬ」 「そんなの封印しちゃいます」 いつものように売り言葉に買い言葉・・・、なのは分かっているが、止まらない。 「盗賊が出るかも知れぬぞ」 「は、反対にやっつけちゃいます」 「・・・人買いに売られるかも知れぬぞ」 「・・・う、・・・うにゅ〜〜〜」 あかねの目が次第にうるうると涙で潤んでくる。 泰明は潤んだ目で泰明を見上げるあかねを見て、僅かに表情を緩めた。 隠してしまうように腕で包み込むと、コツンとあかねの頭に額を当てる。 「・・・あまり心配をかけさせるな」 消え入りそうな小さな声が、あかねの耳に届いた。 あかねはひんやりとする狩衣に頬を摺り寄せる。 上を見上げると、そっと泰明の唇が額に触れた。 「泰明さん、お仕事は?」 あかねは泰明に擦り寄ったまま、ゆっくりと帰路に着いた。 ふと考えてみると、この真昼間に泰明と出会うことは珍しい。 仕事中ならなおのこと。 あかねは泰明が今日は内裏に出仕している事を知っていた。 今朝方泰明に文を出したところ、陰陽寮へと最終的に行き着いてしまったからだ。 遣いに出した者に、泰明は陰陽寮にいたということを聞いて、職場にあんな文を送ってしまったのか・・・と、慌ててしまった。 今日は師走の二十四日。 旧暦とかを抜きにして、現代でいうクリスマス・イヴである。 好きな人が出来たら、絶対にイヴの夜を二人っきりで過ごすぞ!と以前から心に決めていたあかねだったが、こともあろうにすっかり忘れていた。 そして思い出したのが今朝である。 京に来てしまった為、思い描いていたようなイヴは無理だろうが、二人っきりで彼氏と過ごすという願いは諦めたわけではない。 あかねは仕事があると泰明がなかなか捕まらないことを知ったいたため、急いで文をしたためると泰明の元へと遣いを出した。 泰明はちらりと視線をあかねに移す。 「仕事は終わった。問題ない」 いつもの言葉が出てくる。 あかねは思わず、くすりと笑った。 泰明はあかねの様子を見て、不思議そうな瞳を浮かべる。 「何を笑っているのだ?神子は・・・。本当によく表情が変わる・・・」 あかねは頭を横に振ると、掴んでいる泰明の腕をぎゅうっと力を入れて抱きしめた。 「何でもないです。こうして一緒にいられるのが嬉しいだけだけ」 「・・・・・・」 泰明は居心地が悪そうに視線を泳がした。 あかねはキョトンとして泰明を見る。 もしかして照れているのだろうか? 気のせいか、耳の後ろがうっすらと赤く染まっているような・・・。 あかねは、泰明は雪のようだと思った。 雪のように冷たく、冴え冴えとした気を纏っている青年。 しかし、触れるとじわりと溶けて、水へと還っていく。 泰明の心は、まるで雪のようだ。 出会ったばかりの泰明のそっけなさが嘘のように感じる。 あかねは掌で雪を受け止めると、そっと笑みを浮かべた。 いつまでもこの幸せが続きますように・・・。 今夜願いをかけよう。 そして、この後泰明とどう過ごそう・・・、と心弾ませるのだった。 了 |
<創作秘話(・・・後書きともいう)> クリスマス企画フリー創作です。 イヴなので、思いっきり甘々〜・・・と思って書いたのですが、あれれれ〜? あんまり甘くないですか? プロット立てずに書いてたら、どんどん内容が変わってしまいました。 まあ、でも、雪のようにクールな泰明さんでも、あかねちゃんにかかれば、 「ジュジュッ!」 と一発で溶けちゃうでしょう。 うーん、湯たんぽのような(笑)あかねちゃんです。 by.雪夜 |