春 告 草 § うっすらと雪のつもり始めた道をやや足早に進む足音が、しんと静まり返った通りに響く。 ────思ったよりも遅くなってしまったな。 泰明が嘆息すると、白い吐息が後ろへと流れる。 師である安倍清明に言いつかっていた用事で、泰明は今朝早くから桂へ出かけていた。午過ぎには戻るつもりだったのだが、存外事後処理に手間取った結果、予定よりも随分遅くなってしまっていた。 時は既に夕刻。灯りを用意してきていない泰明は家路を急いだ。 現在、泰明は清明の屋敷の離れを一棟借りて暮らしていた。清明から用を言いつかる事の多い泰明には、その方が都合が良いからだ。 が、最近になって彼は自分の屋敷を持つ事を真剣に考え始めていた。その理由とは────‥‥。 何とか暗くなる前に邸へ帰り着いた泰明が、肩や頭に薄くつもった雪を払い落としていると、屋敷の奥の方からたたた、と軽い足音が聞こえてきた。少しの間を置いて、一人の少女が廊下の角からひょこっと顔を出す。泰明の姿を認めると、表情がぱっと明るくなった。 「おかえりなさい、泰明さん」 嬉しそうに笑いながら、少女が泰明に近づく。その笑顔を見た泰明は、冷え切っていた身体がふわりと温まるのを感じた。それは決して気のせいなどではなく、事実、彼女の纏う陽の光のように暖かな気がその場の空気を優しく暖かいものにしていた。 「────あかね」 やわらかく笑んで泰明が少女に応える。表情に乏しい泰明が穏やかな微笑みを見せる、この世界でたった一人の少女───あかね。 人ならぬ身の自分をいとも容易く受け入れ、常に理解しようとしてくれた、たった一人の‥‥かけがえのない存在。最後の戦いの後、自分の元に残って欲しいと縋るように差し伸べた手を、何のためらいもなく取ってくれた人‥‥。 ───泰明の、世界の中心───‥‥。 「あ、泰明さん雪がつもってる」 くすくすと笑いながら、あかねは泰明の頭に薄くつもった雪を袖で払い落とした。手を伸ばせば触れられる程に、二人の距離が近づく。 泰明が腕を伸ばした‥‥。 「寒かっ‥‥きゃっ!?」 突然泰明に引き寄せられて、あかねが小さく悲鳴をあげた。 「やや、泰明さんっ!?」 たおやかな身体を抱きしめながら、泰明はあかねが好んで焚き染めている、菊花の香の薫りを吸い込んだ。その香は泰明が愛用している物と全く同じ薫りがする。どうせなら泰明さんの好きな香が良いからと、あかねが選んだのだ。それ以来、二人は同じ薫りを纏っていた。 あかねのこうした小さな気配りは随所に見られ、それらに気付くたび、泰明の心は穏やかな喜びに満たされる。愛しいという想いが、泰明の身の裡を満たしていく‥‥。 「や、泰明さん、あの‥‥」 黙り込んでしまった泰明に、頬を染めたあかねが声をかけた。誰かに見られたらと思うと気が気ではない。だが泰明はそれには答えず、彼女の身体を抱き寄せたままポツリと呟いた。 「────ただいま」 「!」 小さな呟きだったけれど、あかねにはしっかりと届いたようだ。嬉しそうに笑って、二度目のおかえりなさいを口にする。それを聞いた泰明が漸く身体を離した。 「お師匠の所へ報告に行ってくる。あかねは先に‥‥」 「あ、私も一緒に行きたいな‥‥駄目ですか?」 「構わないが‥‥寒いぞ」 雪が降ってきたせいか、屋敷の中も冷え込んできていた。じっとしていると、足元から冷気が這い上がってくる。が、あかねは首を横に振った。 「泰明さんがいるから平気です」 「相変わらず、不思議な事を言う‥‥」 あかねが言っている事の意味が理解できず、泰明が首を傾げた。それに笑顔で答えると、あかねは泰明の腕を引っ張った。 「わからなくてもいいんです。さ、早く行きましょう」 泰明はしばらく何か言いたげにしていたが、あかねが良いと言うのだからと、それ以上は追求せず腕を引かれるままに歩き出した。 板張りの廊下を歩く二つの足音が、人気のない屋敷に静かに響く。 前を歩く泰明の後ろについていきながら、あかねは今日の用事の事を尋ねた。 「今日、遅かったですけど、何かあったんですか?」 「いや、特に問題はない。少し事後処理に手間取って遅くなった。‥‥‥待たせたか?」 今日は午には帰るというので、あかねは泰明の帰りを清明の屋敷で待っていたのだった。泰明が僅かに表情を曇らせたのを見て、あかねが慌てて首を横に振った。 「そんな事ありません。そうじゃなくて、その‥‥危ない事とかなかったのかなって思って‥‥」 心配そうな顔で尋ねるあかねを見て、泰明がほんの少し目元を和らげる。 「大丈夫だ。あかねが案ずる事はない。‥‥心配してくれたのか」 「えっ‥‥そ、そんなの当たり前です」 あかねは穏やかな泰明の微笑みに、僅かに頬を染めて答えた。目元を和らげると、泰明の表情はとても優しくなる。無防備と言っても良いその表情に、あかねは大層弱いのだった。 「そうか」 それだけ言うと、泰明は前を向いてしまった。が、その声が嬉しげな響きを含んでいた事に、あかねはちゃんと気付いていた。そうですと嬉しそうに返事を返しながら、泰明の後をついて行く。 ただでさえ人気のない屋敷が、雪が降っている為に更に静かだった。 しんしんと雪の降る庭を見て、泰明はふと似たような静けさを湛える場所を思い出した。 北山は泰明にとっても、師である清明にとっても縁の深い場所。うっそうと木々が生い茂り、昼間でも薄暗い事からあまり人を寄せつけないのだが、泰明はそこが気に入っていた。その静けさに触れるのが好きだった。 ───そういえば、天狗があかねを連れて来いと言っていたな‥‥。 彼は泰明だけではなく、あかねの事も大層気に入っていた。何かにつけてあかねを連れて来いとうるさいのだ。連れて行く事に別段不都合はなかったが、後でからかわれるのが気に食わない。だが、連れて行かないとまたうるさいだろうし‥‥。仕方ないと小さく嘆息して、 泰明があかねを振り返った。 「あかね。今度北山の───‥‥」 ───振り返ったところで、泰明の動きが止まった。色違いの双眸が大きく見開かれる。 先刻まで後ろにいた筈の、あかねの姿が忽然と消え失せていた。振り返った視線の先には、ただ空虚が広がるのみ。 「‥‥‥あかね‥‥‥?」 泰明の掠れた声が雪に吸い込まれて消えていく。静寂という名の音が辺りを埋め尽くし、まるで世界にたった独りになったような錯覚に陥る。 刹那、泰明の背に戦慄が走った。心臓が大きく脈打ち、身体が震える。指先が氷のように冷たくなり、ともすれば膝から崩折れてしまいそうになる。 ───先刻までそこにいたのだ。話をして、笑顔を見せてくれた。 泰明は瞬きすら忘れて、あかねのいた空虚を見つめる。 ───抱きしめてその温もりを感じて、同じ香の薫りに包まれた。 頭の芯が痺れて、思考が上手く働かない。まるで足が床に縫い止められたかのように、一歩も動けない。 ───そんな筈、ない。 強烈な焦燥と喪失感に襲われて、泰明は目の前がくらりと揺れるのを感じた。まともに動かない思考に鞭打つと、声を絞り出した。その声はどうしようもなく震えていたが、泰明にはそんな事を自覚する余裕はなかった。 「あかね‥‥!」 ───嫌だ。失くしたくない‥‥‥! そう強く願った時、ごく近くから声が聞こえた。 「や、泰明さぁん」 「─────!!」 まるでその声が呪を解く鍵であったかのように、泰明の身体に自由が戻った。逸る気持ちのままに廊下を駆け、角の向こうへ身を躍らせる。するとそこには────‥‥。 「あ、や、泰明さん〜〜」 何故か情けない顔をしたあかねが立っていた。そして泰明に何かを言おうとして‥‥言葉を切った。と言うよりは、泰明の行動に中断させられたと言った方が正しいか。 「‥‥泰明さん‥‥?」 泰明があかねをやや乱暴とも取れる勢いで抱き寄せ、その腕の中に閉じ込めたのだ。突然抱きすくめられて、あかねが戸惑った声を上げる。だが泰明はそれには構わず、彼女を抱く腕に力を込めた。きつく抱いてあかねの温もりを、彼女は確かにここにいて、こうして触れる事ができるのだと確認すると、漸く息をつく。 「泰明さ‥‥」 「お前が‥‥‥消えてしまったのかと、思った‥‥‥」 消え入りそうなその声も、背を抱く腕も、抱きとめる胸も。何もかもが震えている事に気付いたあかねが眉をひそめた。そして泰明が何故こんな行動に出たのか、その意味を理解する。 「泰明さん、あの‥‥」 何かを言おうとして、泰明の腕の中のあかねが身動いだ。だが、いまだ不安を消しきれない泰明は、腕を解いてしまえばまたあかねはどこかに消え失せてしまうのではないかという思いに囚われ、更に強い力で抱き寄せる。 「‥‥痛っ‥‥」 すると、あかねが小さな悲鳴をあげた。そんなに強く抱いただろうかと怪訝に思った泰明があかねを見ると、困った顔をした彼女と目が合った。 「どうした?」 「あ、あの‥‥髪が‥‥」 見ると、肩口まで伸びたあかねの髪が、上げられた御簾にひっかかっていた。あかねが突然姿を消した理由を悟った泰明は小さく嘆息した。こんな事でいちいち不安になる自分を情けなく思わないでもなかったが、こればかりは仕方がなかった。 ───もう、失くす事はできないのだ。 たとえ、何があっても‥‥。 「じっとしていろ」 「えっ‥‥?」 ふわり、と泰明の腕があかねの上に覆い被さるように伸ばされた。 まるで抱きしめるようなその体勢に、あかねの鼓動が跳ねる。だが泰明の手が頭の後ろで動いたのに気付くと、顔を赤らめて俯いた。 あ、な、なんだ。髪を解いてくれてるんだ。‥‥びっくりした‥‥。 あかねはほっと息をついたものの、一度意識してしまうとなかなか心臓を落ち着ける事ができない。 先刻はあんなに強く抱きしめられたのに、戸惑いの方が強かったせいか意識する暇がなかった。だが今は抱きしめられている訳でもないというのに‥‥。 どうして、こんなにドキドキするんだろう? 泰明の腕が触れるか触れないか‥‥そんな微妙な距離が却ってあかねを落ち着かなくさせていた。長い袖があかねを覆い、泰明の菊花の香の薫りが彼女を包む。まるで泰明の温もりに包まれているような錯覚に陥ったあかねは、頬が熱くなるのを自覚して更に赤くなった。 ううう、落ち着け心臓〜っ。こんな顔見られたら泰明さんに変に思われちゃうよ〜〜! 「取れたぞ」 「へっ?‥‥あっ、えと、ありがとうございましたっ」 奮闘も虚しく、あかねの顔は真っ赤なままだ。いきなり声をかけられて思わず上擦った声で返事を返すと、泰明が怪訝そうにあかねの瞳を覗きこんだ。 「どうした。熱でもあるのか?」 そしてあかねの額に自分の掌を当てて熱を測る。直接伝わる温もりに、あかねの鼓動が一段と速くなった。 「なっ、ない。ないですっ」 ぶんぶんと首を振って否定すると、泰明が首を傾げた。 「そうか?それなら良いが‥‥。ところで、何故こんな所に髪がひっかかったのだ?」 普通に歩いていれば、御簾に髪が引ひっかかったりはしない筈だ。 不思議に思った泰明が尋ねると、ああ、と頷いてあかねが庭を指差した。その指の先へ視線をやって、泰明が僅かに瞠目する。 「───梅‥‥?」 泰明の言葉にこくんと頷いて、あかねも庭へ視線を向けた。 二人が見ているのは、庭に植えられた紅梅の木。その枝の一つに、紅梅の花が二輪、寄り添うようにして咲いていた。つもり始めた雪がまるで綿帽子のようで、その姿が何とも愛らしい。 「さっき見つけて‥‥声をかけようとして振り向いたら髪が引っ掛かっちゃったんです」 あかねが恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。 「まだ咲くには早過ぎるけど‥‥泰明さんに見て欲しかったのかな?」 「‥‥?‥‥私に?」 「はい。泰明さん、時々あの梅の木の傍に立っていたでしょう?その時の空気がとっても優しかったから、あの木もきっと泰明さんの事が好きなんじゃないかなって思って」 紅梅の傍に立って何かを語りかけている泰明の瞳も、そこに流れる空気も、何もかもが優しい色をしていた事を思い出して、あかねが嬉しそうに微笑んだ。 「空気‥‥?」 「?‥‥私、何か変な事言いましたか‥‥?」 「いや‥‥‥」 彼女は龍神が去った今もなお、『気』を感じる事ができるのか。泰明ほど確かなものではないようだったが、あかねの常人ならざる感覚の鋭さに、内心で舌を巻く。神をその身に宿す程の器の大きさ‥‥。 泰明はその潜在能力に底知れないものを感じた。 「あの紅梅は、私がこの屋敷に来た時にお師匠が植えたものだ」 「そうなんですか。じゃあ、あの紅梅は泰明さんと一緒に育ったんだ‥‥とても大事な木なんですね」 嬉しそうに言うあかねを、泰明は珍しいものでも見るようにまじまじと見つめた。次いでその目元が僅かに和む。 人ではないその器に生命が宿ると、何のためらいもなく信じる柔軟な心は、龍神の神子であった頃から全く変わっていない。泰明にはそれが嬉しかった。 「あれが好きなのはお前だ」 「───え?私??」 「そうだ。連理の賢木のように言葉を話す訳ではないが、あかねの話をすると喜ぶ」 「‥‥‥‥」 「どうした?」 「あ、あの‥‥私の事、話してたんですか?」 「そうだ。いけなかったか?」 「えっ!そそそんな事ないですけどっ」 「けど?」 泰明があかねの瞳をじっと覗きこんだ。彼は時々こんな風に、無邪気な子供が母親に『あれなあに?』と訊く時のような仕草をする。色違いの瞳を間近で見つめる羽目になり、あかねの頬が熱くなる。 「だっ、だからその‥‥」 もじもじとあかねが口ごもると、泰明が首を傾げた。 「あかね?」 「‥‥や、泰明さんが私の事考えてくれてたのが‥‥その、嬉しかったんです‥‥」 「‥‥そう、なのか?」 「はい‥‥」 恥ずかしそうに見上げるあかねの視線を受けて、泰明がふっと目を伏せた。その頬が僅かに染まっている事に気付いたあかねが目を瞠る。 「泰明さん‥‥?」 「‥‥お前は‥‥時々思いがけない事を言うな‥‥」 「え、そ、そうですか?」 「‥‥そうだ」 嘘みたい‥‥。泰明さんが、照れてる‥‥‥? 信じられないものを見るような面持ちで、あかねは思わず泰明の顔をじぃっと見つめた。すると、居心地悪そうに泰明が視線を逸らす。 「‥‥あまり、見るな」 拗ねたような表情が何だかものすごく可愛くて、あかねは顔が笑ってしまうのを止められない。 ───うわぁ‥‥!どうしよう、すっごく嬉しい! 泰明が新しい表情を見せてくれた事が嬉しくて堪らない。愛しさがあかねの胸に満ちて、笑みとなって溢れた。泰明はその花が綻ぶような笑顔に鼓動が乱されるのを自覚した。形の良い眉を僅かにしかめる。 しかし、あかねはそれには気付かなかったようだ。嬉しそうに笑って、泰明に告げる。 「やっぱり、あの梅の木が好きなのは泰明さんだと思います」 「‥‥何故、そう思う?」 「泰明さんがあの木を大切にしてるから、それが嬉しくて応えてくれたんだと思うから‥‥」 「それはあかねも同じだろう。時々、あの紅梅の傍にいなかったか」 「え、見てたんですか?‥‥誰もいないと思ってたのに‥‥」 見られていた事が恥ずかしいのか、あかねの頬が僅かに赤くなる。 「‥‥その時、愛おしげに紅梅に触れるお前を見て‥‥何故だかとても嬉しかった」 「え‥‥」 自分が大事にしているものを、自分にとって大切な人が同じように大事にしてくれたとしたら? 一体、どんな気持ちになるだろう? ‥‥想像してみて欲しい。 それがどれ位凄い事なのか。 考えてみて欲しい‥‥‥。 「こんな気持ちを教えてくれたのはお前だ。今も、胸の奥が温かい‥‥。これが愛しいという想いなのだな‥‥」 目元を和ませて、泰明があかねの手を取った。 「お前がいてくれたから、私は『私』としてここにいられるのだと思う‥‥」 「泰明さん‥‥。私は、何もしてないよ。見つけたのは泰明さん自身だもの。でも‥‥」 「でも?何だ?」 先程と同じように訊き返してくる泰明が何だか子供のようで‥‥、 あかねがふんわりと微笑む。 「今みたいに、泰明さんが自分の気持ちを教えてくれるのは嬉しいです。‥‥もっともっと、泰明さんの事知りたいから‥‥たくさん教えて下さいね。これからも、ずーっと。ね?」 小首を傾げて可愛らしくお願いするあかね。泰明は一瞬虚をつかれたような表情をして────次の瞬間、あかねの笑顔に応えるように微笑んだ。 それは宣告だ。 たとえ何があっても泰明の未来を手放さないという、あかねの宣告なのだ。 決して逃れる事のできない、甘美で優しい鎖‥‥‥。その心地良さに、泰明はうっとりと身をゆだねた。愛しい人が自分を離さないと言ってくれる、これ以上の喜びが他にあるだろうか。 いまだにあかねが自身の元に留まってくれた事を夢のように感じている泰明だったが、今の彼女の言葉は深く心に染みた。あかねの身体を引き寄せると、まるで羽根をいだくようにそっと抱きしめる。 「わかった」 そっけないと思う程、簡潔な答え。けれどあかねにはきちんとわかっていた。泰明が口にする言葉に偽りがない事を。どんな時も事実だけを口にする泰明の言葉だから、何よりも信じられる。 泰明の背に腕を回してその温もりを感じながら、あかねがとっておきの秘密を明かすように小さな声で囁きかけた。 「さっき、泰明さんがいるから寒くないって言ったでしょう?」 「ああ。それがどうかしたのか」 「泰明さんが傍にいてくれると、胸の奥がほわってあったかくなるから。だから平気なんですよ?」 「‥‥‥‥‥‥」 あかねの言動はいちいち泰明の鼓動を乱す。だがそれを心地良いと思い始めたのはいつの頃だっただろうか? あかねという優しい風の起こす心の細波を、自分の中にある『感情』なのだと自覚したのは‥‥? 今となっては、それは些細な事だったが。 「そうか。‥‥では、同じなのだな‥‥私達は‥‥」 「本当だ。おんなじですね」 嬉しそうに笑って、あかねが泰明の胸に頬をすり寄せた。 ────梅は春を告げる花。 寒さの中に、微かな温もりを運ぶ。 ────ゆっくり‥‥ ゆっくりと‥‥‥、春の訪れを告げていく。 寄り添うように咲いた紅梅の花は、 二人の心にも温もりを運び、『愛しい』という想いの花を咲かせ‥‥‥。 春の訪れを告げていった‥‥‥。 ────その日、片時も二人の姿が離れる事はなかったとか‥‥。 < Copyright(c) Iku Yuuki. 2002 / Site「BLUESTAR」> |
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「雪語り三部作」泰明さん編です。 照れる泰明さんに拗ねる泰明さん!! 可愛いですよね〜vv(…をや?) あかねちゃんがいる事で、 泰明さんが精神的に安らいでいる雰囲気が感じられてとても素敵でした♪ 梅の花を通して心を通わせている処も とても泰明さんらしくて素敵ですvv そのせいか、「雪語り」だったのにお話の中の「梅」の印象がとても強くて 紅梅の壁紙をあちこちで探してしまいました(笑)。 郁さん、素敵な創作をありがとうございました。 by.陸深 雪 |