同じ時を・・・
今だ残暑が残るこの季節・・・・・・・・・・・・
泰明はこのところ妙な寂しさのようなものを感じていた。
異世界からやってきて、そして龍神の神子として接していた少女・・・・・・・・・・・
泰明は少女の道具となるべく、常に行動を共にしていた。
毎朝、左大臣邸に赴き、そしてあかねと共に京の散策へと出かける。
いつも傍にいて・・・・・・・・・・・・・・
いつも共にいて・・・・・・・・・・・・・・
いつしかそれが互いにとって当たり前のようになっていた。
自分は神子の道具だから・・・・・・・・・・・・
そう思っていたのに、いつの間にかその存在は大きなものとなって・・・・・・・・・
そして最終決戦の日、泰明はその気持ちが何なのかはっきりと自覚した。
あれから、すでに3ヶ月・・・・・・・・・・・・
あかねはこの京という世界に残っている。今だ落ち着くまでは・・・と、とりあえず左大臣邸で世話になrりながら・・・・・・・・。
それは・・・・・・泰明のもとへ残るため・・・・・・・・・・・・
「あかね、何をしている。」
その声にあかねは『ビクリッ』と肩を震わせた。
早朝、左大臣邸のあかねの部屋へと向かったが、そこにあかねの姿はなかったため、泰明は必死になってあかねの姿を探した。
そして、やっとあかねを見つけてみれば、当の本人は賄所で何やら作業をしている。
もちろん、そんな必死になっていたような様子など微塵にも見せず、泰明はいつもの無表情であかねを見ていた。
「あ・・・泰明さん・・・な、何でもありませんよ。」
そう言いながら振り向いたあかねの表情は、見るからに引きつっているもので・・・・・・・・・・・
泰明は不振そうにあかねを見つめる。
「えっと・・・あの・・・・・・」
あかねは焦ると言葉が出なくなる・・・・・そんな癖に、泰明は随分と前から気付いていた。
「・・・あの・・・・・・・」
「今日は共に過ごさないのか?」
必死になって次の言葉を捜すあかねに、泰明は尋ねる。
「あ、そう、今日はですね、天真くんと詩紋くんを誘って出かけようかなって・・・・・・」
「そうか・・・・・」
泰明に問いにそう答えるあかねに、泰明は無表情のまま答える。
そして踵を返すと、そのまま賄所を出た。
再び渡殿を泰明は屋敷の入り口へと向かって歩む。
何故だか無性に心がざわめき合っていた。
何故だか胸が苦しかった。
もちろん、内裏での仕事もある。
あかねも、他の者たちと出かける時もあるだろう。
しかし・・・・・・今まで早朝あかねのもとを訪れて、他の者と出かけるからと断られることなど一度もなかった。
あかねのもとに出向けば、共にその一日を過ごすことが当たり前となっていたのかもしれない。
そんな状況に慣れてしまっていたのかもしれない・・・・・・・・・・
泰明は足を止め、東の空から射す明るい朝日を見つめた。
この感情が、何というのかもわからない。
何故・・・・・こんなに心乱れるのか・・・・・・・・・・・・
わかることは、あかねを愛しく想うその気持ちだけなのだから・・・・・・・・・・・・
「あかねちゃん、うまくいってる?」
泰明が去ってしばらくたち、賄所には詩紋と天真が現れた。
「いまいち・・・・・・」
二人はそう言うあかねのもとへと歩み寄り、そしてあかねの手元を見る。
「うん・・・・確かにそうだね・・・・・・」
「これ、食えんのかよ・・・・・・」
そんな天真と詩紋の言葉に、あかねは大きなため息をつく。
「いや、でもね、見た目じゃないし・・・・ちゃんと材料があれば大丈夫だよ!」
落ち込むあかねを必死に詩紋は元気付けようとする。
「とりあえず出かけようぜ。頼久の話だと、似たような材料も売ってるみたいだしよ。」
あかねはとりあえず汚した道具などをカチャカチャと水につけると、そのまま天真たちと共に屋敷を出た・・・・・・・・・・・・
急に一日の時間が空いてしまい、何をすることもなく泰明は内裏へと向かった。
鬼の一族の姿も消え、京の世界には平穏な日々が戻り、今、陰陽師としての仕事はそう忙しいものではない。
机の上に重ねられてある書類に目を通すこともなく、泰明はぼんやりと部屋の前に設えられてある庭を眺めていた。
感情を持たないと思っていた自分が、あかねを愛しく思い・・・・・・・・・
そしてあかねもそう思ってくれる。
それは幸せに満ち足りたことなのかもしれない。
しかし・・・・・・・ふと怖くなることがある。
自分は造られたもので・・・・・・・・・・・・
あかねは普通の人間で・・・・・・・・・・・・
こんな自分に嫌気がさして、あかねが自分の前から消え去ってしまったら・・・・・・・・・・・
ふと・・・・・そんなことを考えてしまう・・・・・・・・・・・・・
「泰明殿。」
その声にふと視線を向けると、そこには頼久の姿があった。
「頼久か。」
つまらなそうにそう答える泰明のもとへ頼久は歩み寄る。
そして一通の文を差し出した。
「これは?」
泰明はその文を不思議そうに見、そして頼久の手から受け取る。
「あかね殿からの文です。確かにお渡ししましたので。」
そう言って立ち去る頼久の後姿を泰明は不思議そうに見つめ、そして再び文へと視線を戻す。
ゆっくりとその文を開き、中を見てみるのだが・・・・・・もちろんあかねの文字が泰明に読めるはずもなく・・・・・・・・・・・・
所々の部分で、何となくその意味が通じるようなもの。
しかし、八葉として接していた物忌みの日以外であかねから文などをもらうことは初めてで・・・・・・・・・・
ついその表情が柔らかなものになる。
泰明は文を再び折りたたみ、そして大事そうに胸元へと忍ばせた・・・・・・・・・・・
「あかねちゃん・・・本当に行くの?」
「行くよ。今日は特別だもん。」
「とりあえず天真先輩だけにでも言っていった方が・・・・・」
「そんなことしたら、絶対天真くん、着いて来るっていうでしょ。」
「でも・・・・・」
夜も更け、左大臣邸の入り口では、物陰に隠れたあかねと詩紋が身を潜めこそこそと話す。
「もう、いいから詩紋くん、頼んだとおりにしてね。」
あかねはそう言うと詩紋を物陰からぐいっと押し出した。
2、3歩よろけながらも、詩紋は仕方なく門番の方へとぼとぼと歩んでいく。
そんな様子を、あかねは物陰に隠れたまま、じっと見つめる。
門番へと歩み寄った詩紋は、門番に話しかけ、そしてその者たちを庭の方へと追いやった。
あかねは門へと駆け寄り、そして詩紋ににっこりと微笑む。
「あかねちゃん、早く帰って来てね。」
「うん、ありがとう、詩紋くん。」
手には小ぶりな包みを大事そうに持ち、心配そうに見る詩紋を尻目にあかねはそのままパタパタと夜の闇に消えていった・・・・・・・・・・・・・
しばらく歩き、そしてあかねは周りの様子を眺める。
もちろん街頭なんてどこにもあるわけがない。真っ暗な闇の中、明かりになるのは夜空に浮かぶ月の明かりのみ・・・・・・・・・・・・
そんな月を見上げ、ふと歩みが止まるが、あかねは再びパタパタと駆け出す。
向かう先は泰明のもと・・・・・・・・・・・・
今日は泰明の誕生日・・・・・・・・・・・・
何が出来るわけでもない。でも、おめでとうの言葉が言いたい。
頼久に頼んだ文は、きちんと泰明に渡っているだろうかと思う。
無事に泰明の手に渡っていることを信じて・・・・・・・泰明が待っていてくれることを信じて・・・・・・・・・・・・・
一台の牛車がすれ違う。
こんな夜更けに女の子が走ってたりしたら、きっと怪しく思われてしまうだろうとふと思うが、今はそんなことを言ってられない。
あかねは何も気にせず、そのまま牛車とすれ違った。
「あかね!!」
牛車とすれ違った瞬間、呼び止められるその声に、あかねは驚いたように足を止める。
「え?」
そして振り返ってみると、そこには牛車の御簾を開け、泰明らしからず慌てた様子で中から降りてくる泰明の姿・・・・・・・・・・・
「なんで?」
自分が泰明のもとへと向かっているはずなのに、なぜ泰明は自分の屋敷とは反対方向の左大臣邸へと向かっているのかが、一瞬あかねには理解できない。
「こんなところで何をしている。」
あかねのもとへ駆け寄りそう尋ねる泰明を、あかねは不思議そうに見た。
「何って・・・泰明さんこそどうして?」
文には、『今夜、屋敷で待っててくださいね』と書いたはずなのだ。しかし、泰明には『今夜、屋敷に来てね』といったように書いてる風に感じたのだろう。
「お前が、来いと言ったから・・・・・」
あかねは自分の考えていた計画が崩れたことに、しばし考え込むが顔を上げ、泰明ににっこりと微笑んだ。
「まあ、ちょっと計画は、ずれちゃったけど・・・・会えたからいいですね。」
そう言うあかねを、泰明は不思議そうに見る。
「えっと、お誕生日おめでとうございます。」
そう言って満面の笑みを浮かべながら持っていた包みを差し出すあかねを、泰明はさらに不思議そうに見つめながらも、その包みを受け取った。
「誕生日・・・・・・」
「うん、9月14日、泰明さんの誕生日ですよね。」
そう言ってにっこりと微笑むあかねを、泰明は見つめる。
今まで誕生日など、自分ですら思い出すこともなかった。実際京という世界、あまり個人個人の生まれた日というものは重要視はされていない。
造られたものなどに、生まれた日などあるはずがない・・・・・・ふとそんなことを思ってしまう・・・・・・・・・・・
「泰明さん、今、誕生日なんてくだらない・・・とか思ったでしょ。」
包みを手に持ったまま、じっと考え込む泰明に、あかねは軽く睨みながら言った。
「いや・・・・」
「とにかく、それ、開けてみてください。」
あかねに急かされ、泰明は包みを左手で支え、右手でその包みを開く。
包みの中には20センチ四方ぐらいの箱があり、泰明がその箱を開けると、中には数枚のパンケーキ。
「神子・・・・これは?」
「パンケーキです。」
泰明の問いにあかねはにっこりと答える。
もちろん泰明にパンケーキと言ったところでわかるはずがない。やわらかい煎餅ぐらいにしか思わないかもしれない。
「えっとね、私たちの世界では誕生日にケーキっていう甘いお菓子みたいなのを食べるんです。でも、こっちはその材料もないし・・・パンケーキだったら作れるかなって。」
実際パンケーキではなく、パンケーキもどきなのだが・・・・・それはそれであかねはいいとしておいた。
多分小麦粉だろうと思われる粉。
それをとりあえず水で溶いてそのまま焼いてみた。
甘くないとそれっぽくないだろうと思い、とりあえず砂糖は入れてみた。
何度も何度も失敗し、そして材料を買いに天真や詩紋と共に町へ出て、一日がかりで作ったもの・・・・・・・・・・
実際、美味いといえる代物ではないかもしれないが、何枚も作った中で、とりあえず見栄えがよいものを選んできたつもりだ。
「あの、今朝はごめんなさい。せっかく来てくれたのに・・・・どうしても泰明さんを驚かせたくて・・・・・・」
申し訳なさそうにそう言うあかねに、泰明はふと微笑む。
「これを、作ってたのか?」
泰明の言葉にあかねは頷く。
パンケーキを一枚手に取り、そして泰明はそのまま口へと運んだ。
「どうですか?」
そんな泰明にあかねは心配そうに尋ねる。
「味がしない。」
確かに、小麦粉と思われる粉を、水で溶かし少し砂糖を入れて焼いただけなのだ。シロップもなければバターもない。泰明の答えは正直なものだろう。
「しかし・・・・」
肩を落としたあかねは、泰明の続ける言葉に顔を上げた。
「美味いと思う。」
味がしないのに美味いというのは、少しばかり矛盾しているとも思えるが、それは泰明の正直な気持ち・・・・・・・・・・・・
味がどうのこうのといった問題ではないのだ。
あかねが・・・・・・・自分のために作ってくれたのだから・・・・・・・・・・・・
美味くないはずがない。
「本当に?」
恐る恐るそう尋ねるあかねに、泰明は優しく微笑む。
そして、しっかりと頷いた・・・・・・・・・・・・・
そんな泰明に、嬉しそうに微笑むあかねを泰明はふわりと包み込む。
見た目よりもずっと広い胸の中、あかねはゆっくりと瞼を閉じる。
「お誕生日、おめでとうございます。泰明さん。」
泰明の胸の中、静かにそう囁くあかねに泰明は幸せそうに微笑む。
「来年も、再来年も・・・・・ずっとこうやって一緒にお祝いしましょうね。」
どこにいても・・・・・・・・何をしてても・・・・・・・・・・・・・・
思い浮かぶのはあなたの笑顔・・・・・・・・・・・・・
来年も・・・・・再来年も・・・・・・・・・・・
10年先も、20年先も・・・・・・・・ずっと一緒にいたいから・・・・・・・・・・・・
この日をずっと二人で祝いたいから・・・・・・・・・・・・・・
ずっと、傍にいてください。
ずっと、あなたの傍にいます。
ずっと・・・・・・二人同じ時を過ごしたい・・・・・・・・・・・・・・・・
微かに香る菊花の香・・・・・・・・・・・
二人を優しく照らす月明かり・・・・・・・・・・・・
すべてが、心地よく・・・・そして幸せを感じずにはいられなかった・・・・・・・・・・・・
■□ 終 □■
泰明さん誕生日おめでとうvv ということで、やはり書いた誕生日創作です♪ しかしまあ、甘い系を狙ったのか、笑いを狙ったのかいまいちわからないお話になってしまいましたね・・・( ̄- ̄;) 自分で書いてて、途中でわかんなくなってきたぐらいです。 しかし、どっちに転んでも中途半端な話なのですが・・・(汗) 疑問点は・・・京に小麦粉はあったのか!!はい・・・そんなことわかりません。中途半端に『小麦粉らしきもの』とまとめておきました。あれでよかったのかと・・・(T△T)
いやはや、とにかくめでたい誕生日ですねvv
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