××× 愛情遊戯 ×××







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― 生まれて初めて彼氏ができたら、貴女ならどうしますか? ―






「お前は本当に気味が悪い…」
「少し力があるからっていい気になるなよ?」
陰陽寮の隅で、2人の男が新緑の髪の青年を呼び止めた。
「清明様も何故このような男を弟子にしたのか…?」
「…話はそれだけか?」
表情一つ変えず、青年は向きを変える。
「おい!泰明!!兄弟子の私たちを無視するなど…!!」
「男の人の嫉妬って怖いですね!」
木の陰からヒョコっと現れた人物に兄弟子の動きが止まる。
「「み、神子様?!」」
顔面蒼白になってオロオロする兄弟子2人。
反対に眉間に皺を寄せて近寄る泰明。
「神子…何故このような所に?」
「泰明さんに会いに来たんですv」
あかねは泰明の腕をとり、にっこり微笑む。
「み…神子様!今のは…!!」
慌てて弁解しようとする兄弟子に、あかねはチラリと視線を送る。
「泰明さんを苛めたら、私が許しませんよ?」←神子の権力フル活用
にこにこしながら、視線はじ〜っと兄弟子に向けて。
泰明ですら、固まるその姿に兄弟子は一目散に逃げて行った。





「神子、お前があのようなことをする必要はない。」
腕にしがみ付くあかねを見下ろして泰明は溜息を付いた。
「だって!泰明さんが文句言われてるの見たら我慢できないんですもん!」
口を尖らせて反抗するあかね。
…一向に離れる気配がない。
「神子?私はまだ仕事がある故…」
無理に引き離すわけにもいかないので、泰明は遠まわしに促す。
「はい、知ってます!清明様がおっしゃってましたから」
にこにこして答えるだけのあかねに、泰明は視線を外し小声で呟く。
…私は…もう行かねばならぬのだが…
離れてくれなど、死んでも言えない泰明。(どちらかと言えば一緒にいたいが仕事は仕事)
ぐっと堪えて素振であかねを促してみる。
「えへ。清明様が、泰明さんの仕事ぶりを見てやってくれって!だから、今日は一緒にいます!」
― お師匠…耐えろと言うのか?(涙)
「駄目…ですか?」
あかねは涙を浮かべて上目遣いで尋ねる。
「駄目なわけがない!」
思わず叫んでしまう泰明。
「そう?良かった!今日は一緒にいれますね!!」
あかねは嬉しそうに泰明に擦り寄る。
― これも修行。精神修行…
泰明は自分に言い聞かせ仕事部屋に足を進めた。
― やったぁ!先に清明様の所に乗り込んでて正解だったv
あかねは泰明にピッタリと引っ付き成功の喜びを噛み締めていた。





仕事に戻った泰明は一心不乱に働いている。
側ではあかねが物珍しそうに覗き込んでいるからだ。
今日中に完成させないといけない書類にひたすら筆を走らせている泰明を、あかねは嬉しそうに見つめている。
「…神子」
泰明はチラリと視線をあかねに移す。
「はい?」
話し掛けられて嬉しいのか、にっこり答えるあかね。
「…何でもない…」
泰明は少し頬を染め、再び筆を走らせる。
あかねはくすっと笑うと、より一層泰明に近寄る。
― 何故、今日は一段と愛らしいのだ??
体全体でうずうずしながら、泰明は悶々と悩む。
今すぐにでも抱きしめたいが、ここは陰陽寮。加えて仕事中。
真面目な泰明は仕事を放棄することなどできない。
しかし、側ではあかねがいつも以上に愛くるしい姿を振りまいている。
凄まじい葛藤が泰明の中で続く。
「は〜…少し熱いですね…」
あかねは手で顔を仰ぎ、自分の水干を見つめた。
「熱いか?」
あかねを見ないようにして、最後の仕事に取り掛かる泰明。
その様子を見ていたあかねはスクっと立ち上がると、いきなり水干を脱ぎ始めた。
「■△×○?!」
パサッという音に振り向いた泰明の目が見開く。
「は〜涼しい〜〜」
ワンピース姿(もとい制服)になったあかねは涼しげな表情をする。
「?泰明さん、どうしたんですか??」
筆を紙に押し付け固まっている泰明にあかねは顔を近づける。
「も、も、問題ない!」
さり気なくあかねを押し戻しながら泰明は机に向き直す。
― 泰明さん、動揺してるv
あかねはニヤっと笑うと泰明の側に座った。
ビクっと泰明の体が震える。
「あ、泰明さん!ここに埃が…」
あかねは手を伸ばし、泰明の肩に触れようとする。その拍子にバランスを崩し、泰明を押し倒してしまった。
「きゃっ!あ、ごめんなさい、泰明さん!!!」
「…………(プチッ)」
泰明の頭の中で何かが切れた音がした。あかねを抱きしめる腕をゆっくり上げる。
―!駄目だ!今は仕事中だ!!
僅かな理性で泰明は無理やり平然とした表情であかねを起こす。…腕がプルプル震えている。(最大の葛藤中)
「ごめんなさい、泰明さん。邪魔しちゃった…」
「構わない…」
必死に、仕事仕事と念じながら泰明は最後の書類に手をかける。
その様子をあかねは嬉しそうに眺めていた。





§






「ただいまー!藤姫ちゃん!」
「お帰りなさいませ、神子様。ご計画は無事終わられましたか?」
「うんvv泰明さん、だいぶ頑張ってたよ〜!」
「ふふっ。それはようございました。…泰明殿には災難でしたでしょうが。」
「へへ〜!でも、嬉しかったなぁ!泰明さんが動揺してくれてvvまたやってみたいな〜〜!!」
「まぁ、神子様ったら…」
くすくす笑いながら、今日の出来事を藤姫に話すあかね。

一方、泰明は…
「…疲れた…」
帰るやいなや、そのままバタンと倒れていた…






― 生まれて初めて彼氏ができたら、貴女ならどうしますか? ―







【 FIN.】







< Written by Kira. 2003. / Site 【 朝霧 】>







綺羅さんのCOMMENT

プチ企画(?)「湯呑み」間違い探しをご正解された陸深雪様のご要望。
「あかねちゃんが、泰明さんを困らせる」でした。
―― 困らせるというより、苛めてるような…(ボソボソ)
あかねちゃん、子悪魔みたいになってしまいました;
作ってて、途中で何度も「お、鬼だ…」って突っ込んでしまうぐらい(笑)
泰明さんの葛藤が少しでも伝われば嬉しいのですが…

またまたご要望から離れてしまったような…
もぅ申し訳ありませんです、雪様!!

こ、このようなものでも宜しければお持ち帰り下さいませ…
時間かかったくせに、出来上がったのがこんなのとは…(ちょっとムンク顔)




【 朝霧 】綺羅さまの突発企画、間違い探しに参加させて戴いて、
お言葉に甘えてリクエストさせて戴きましたvv

綺羅さんのサイトに「攻めで甘えっ子」な泰明さんの可愛いお話があるんですが、
「…これ、逆のパターンだとどうなるんだろ…」とふと思ってお願いしてみた処、
快く応えて下さったのでしたv

も〜、確信犯なあかねちゃんに振り回されてる泰明さんが可愛い〜〜vv

全っ然、「問題な」くない動揺ぶりがツボでした(笑)

完全にあかねちゃんペースで振り回されてますよね〜(*^m^*)
無碍に出来ずキツイ事の言えない泰明さんは惚れた弱みというヤツでしょうか(笑)
あかねちゃんも本人に自覚があったかどうかは別として、
笑顔一つにしても相当気合いが入ってたみたいですし。

これも好きな人の色々な表情を見たい、という乙女心(?)の成せる技なのか?(笑)
…さらにお師匠や藤姫まで便乗してるあたりが、また何とも…(^-^;)

LAST、疲労困憊でばたんきゅ〜@しちゃってるやっすんも、
可哀想ながらも可愛くて、なんだかほのぼのしてしまいました♪

こうして日々鍛え(=精神修行?)られて、
その後のちょっとしたたかな泰明さんになっちゃうんですね!!(爆笑)



『Q:― 生まれて初めて(こんな可愛い)彼氏ができたら、貴女ならどうしますか?』
『A:― やっぱり困らせてみたくなりますv(←鬼。)』



綺羅さん、素敵な作品をありがとうございました♪



by.陸深 雪






月の宮へ




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