――――― いたずらな風 ―――――
§
 「天真君、イノリ君、封印するよ!」  「おうっ!」  「まかせたぜ!」  凛とした声があたりを響かせる。  「巡れ天の声 響け地の声…」  怨霊のかもしだすおどろおどろしい空気を一掃するかのようにあかねから一筋の光がこぼれ出す。  やがて大きな光の渦となって怨霊を包み込みたちまち一枚の封印札と変化し  するするとあかねの手の中へとおさまった。  「やったな」  「やるじゃん、あかね」  「えへっ」  4枚の札を入手して封印する力があかねに宿った。かねてから倒しては復活する怨霊を  封印という形でその苦しみから解き放つことができるようになったのだ。  五行の力もついてきた。そのコントロールも板についてきた。  怨霊との戦闘の後は爽快感が漂う。  自然と笑みが出てくるのも当然のことである。  「次はどこに行こうかな」  「どっちかっつーと火の力がたりないんだよな。イノリもいるし、火之御子社にでも行こうぜ」  同じ年頃だと会話も気心知れたものである。  一行は天真の提案に従って火之御子社に向かうことにした。  「わっぷっ!」  一陣の風が吹き荒れた。  「いやぁっ!」  「なんだ、なんだ!」  あかねは風にあおられてめくれるままになっているスカートを必死で押さえている。  「…見えた?」  背中越しにとがめるように見つめられてイノリは顔が真っ赤になる。  「い、いーじゃんかよ!へるもんでもないし」  「だぁって…」  ぷうっと顔を膨らませて反論しようとしたあかねの頭を拳骨でぐりぐりしながら天真がいう。  「そんな短いもんなんかはいてるからだろ?」  「だって!こっちの着物だと動きにくいんだもん。それに…あっちの世界では普通だよー」  「ま、そうだよな。」  「そうなのか?」  イノリが目を丸くしながら聞いてくる。京ではあかねの格好はかわっているというだけではない。  かなり露出度が高いもの、それを年頃の女の子が身に付けて人前にでているのである。  「貴族様は直接顔を会わせるなんてことはもちろんしないんだけどさ、俺たち庶民は…  まぁ普通だけど。それにしてもそんな短いもん子供でも着てないぜ」  「そ、そうだよねぇ…」  「そーだよ!最初のころなんか目のやり場に困ったんだぜ」  あかねや天真にとってはあたりまえの丈であっても京の人間にとってはよっぽど刺激的らしい。  「ま、所詮俺らはこっちの人間じゃないんだから、仕方ないよな」  「天真君…」  「なんだよ!」  「それはいいんだけど…やっぱり見えた?」  「ば、ばかっ。そんなこときくんじゃねーよ!」  天真君の慌て具合からして、たぶん図星。  ま、いーか。減るもんじゃないし。  今日の散策は頼久さんと鷹通さん。  木属性と金属性それぞれ強めようと思ってるの。  「さて、と。じゃあ、次に行きましょうか」  昨日の天真たちと違って少し改まった口調になってしまうのも仕方がないが、  足取りはかわらず軽い。  そこにまた一陣の風。  「きゃあ」  慌ててスカートを押さえるあかね。  「……」  「神子殿?どうなさいましたか?」  頼久の言葉にうらめしそうに見上げると、頼久の頬は少し赤く染まっている。  やっぱり見えたのかな…  もう一人の八葉をちらりと見やるとやはりメガネに手を添えながら顔を背けている。  耳、赤いよね…  頼久と鷹通に問うまでもなくすでに知りたい答えは二人の反応をみてわかってしまったあかねは  はぁああ…とため息をついた。  同じ世界の天真や詩紋ならいざ知らず、よりにもよってかなり年上の頼久や(ほんとは若いけど)  鷹通に見られたことは恥ずかしさ倍増である。  天真君やイノリ君みたいにからっといってくれた方がむしろこっちとしても楽なんだけど…  やだな…顔がほてってきちゃった。  口にだす言葉がみつからず沈黙をするあかね。  それに対してなにを考えてるのか先ほどから顔を赤くしてうつむいている鷹通と平静を装っては  いるがあかねの視線に絶えかねてそわそわし始めた頼久。  三人とも沈黙の時間を抜け出すのにかなり時間を要した。  昨夜のうちにスカートの丈をなんとかできないものかと試みたのだが、いかんせん  ジャンバースカートなればどうこうできるものではなかった。  着慣れた衣装を見てため息をつくあかねだった。  それでも、2日同じことがあればそれなりにあかねも警戒する。  本日の同行メンバーは友雅と詩紋である。  詩紋とのたあいない会話も友雅が加わるより楽しいものになってくる。  今日は風のあまり強くない場所にしよっと。  山より平地の方がより風が吹き荒れることもないであろう、と羅城門跡へとやってきた。  「ここで力の具現化をやってみますね」  意識を集中させる。  あかねのまわりを神気が包み神聖なものに見えた。  しかし、無防備な姿ともいえる。  お約束の一陣の風  「えっ!うそっ」  油断していた訳ではないが集中していたためにわずかにスカートへと手を伸ばすのが遅くなった。  と同時に二人の方をすかさず見る。  …やっぱり…  友雅はしっかりこちらを見ている。口元には楽しいものでも見たかのような微笑を浮かべて。  詩紋は申し訳なさ気にもじもじしている。  はぁ…  「おや、どうしたのだい?」  目が合った友雅は早速あかねにちょっかいを出してきた。  顔が赤くなるのがわかる。  言葉が見つからなくて恨めしそうに見てしまうあかね。  その様子を楽しそうに目を細めながら見つめる友雅。  耳元で小声で囁く。  「心配はいらないよ、神子殿。何も、見えてや、しないから」  とほほ。友雅さんのこういう言い方なんとかして欲しいよ〜。  ばっちり見えましたって言ってるようなもんじゃない!  「……」  「おやおや、お姫様は私の言葉が信用できないようだねぇ」  といいながらおもしろくて仕方がない様子で笑い出す。  「あかねちゃん、気にしなくていいよ。一瞬だったし!」  詩紋がフォローしてくれたのだが、やはり見えたことには変わりないのだ。  あかねのため息が大きく一つこぼれた。  その姿をみてなおおかしそうに笑う友雅とその反応にさらに顔が赤くなるあかねとの間を  とりもとうと奔走する詩紋の姿があった。  今日は永泉さんと泰明さんね。  2度あることは3度ある…でも、今日は4日目だもの、そうそう同じことは繰り返さないわよっ。  自然の風になにも悪気があるわけではないであろうが、妙に気合がはいっている。  やってきたのは北山ここで泰明の心のかけらを見つけることができた。  札を無事に取り戻し後は四神を開放するのみではあるが鬼の首領によって失われた八葉の  心のかけらを見つけ出すのも使命として感じていたあかねにとってとても嬉しいことだった。  それに、なんといっても泰明さんの、だもんね。  八葉それぞれ均等に接しているつもりのあかねだったがやはり年頃の女の子。  素敵な人がいればやはり惹かれずにはいられない。  あかねにとってそれが泰明だったという訳である。  北山ではその後力の具現化をなんなくこなし、次に向かったのは蚕ノ社。  そういえば、今日は風もあまりないみたいね…よしよし。  あかねがなにを考えているのかなどは玄武二人には理解が及ばないところだったであろう。  何事もスムーズにいっているあかねはすっかり気を許していた。  移動の道のりも木々の緑が目にまぶしい。  そこへあかねに挑むかのような強い一陣の風。  「気をつけろ!神子」  「きゃっ」  まわりの木々が大きくしなった。  視界を妨げられた状態のあかねに手を差し伸べようとする泰明。  だが、それよりも早く足元の覚束なさにすってーんとあかねはお尻からころんでしまった。  「いたたたた…」  現代のようにアスファルトの地面でないだけ幸運だったかもしれない。  しかし、尻もちをついたあかねのスカートはしっかり前がめくれていた。  「大丈夫ですか?神子」  永泉がおずおずと聞いてくる。  「うん。ちょっとお尻うっちゃったんですけど、大丈夫で…」  永泉の頬が染まりわずかに視線を伏せている様子を見たあかねは  最後まで言葉をつなげれらなかった。  最悪だ…  慌てて立ち上がるも打ち付けたお尻の痛さは身にしみる。  「なにをそんなに慌てているのだ?」  泰明はなにごともなかったかのように尋ねてくる。  「や…泰明さん!見たでしょ!」  「なにをだ」  「なにって…」  恥ずかしさのあまり直接的に問いただしたものの、泰明の問いにはっきりと返せなくなる。  パンツ…なんていえないよぉ。  「神子…そのようにお気になさらないでください。あの…私は僧侶の身ですのでそういうことは  目に入らないものですから。どうか…」  やっぱり永泉さんにも見えてたんだよね…  「なんだ。神子の言うこととは身に付けているすかぁととかいうものの中身のことか」  「あ、やっぱり見たんですね」  「見たのではない。見えたのだ。神子は正しい言葉を使うことを覚えろ」  う…結果的には同じじゃない…  気になる人に見られただけでも恥ずかしいのに、それをなにもなかったかのように言い捨てられる  のも納得できないものがある。  あかねは複雑な気持ちを整理するべく黙りこんだ。  自然と手は痛みを感じるお尻をさすっている。  「神子」  「!」  気がつくと泰明がすぐ間近にきていた。  そしておもむろに跪くと突然の泰明の行動に言葉がでないあかねをよそに  スカートの中へと手を差し入れて直接お尻に手をあてなにやら呟いた。  「や、泰明殿…」  「○▼□○▲〜〜〜〜!!!」  手が…手がぁっ…!!!  すっと立ち上がり何事もなかったかのようにあかねをちらりとみやり淡々と物言う泰明。  「神子が打ち付けた痛みをとる呪いをしておいた。これでもうよいだろう」  パッチーーーン!!  「泰明さんの…泰明さんのエッチーーー!」  あかねは涙を浮かべて走り去った。  処は左大臣家。  「神子様?今日はお早いお帰りですわね」  ずどどどどど……  「神子様?」  藤姫と言葉を交わすまもなく一目散と部屋へと走り去るあかね。  「あの…藤姫」  「永泉様」  あかねの行動に驚いている上に今日同行していた永泉もやってきている。  自然と顔には問う文字が浮かんでいたのだろう。  「実は…」  永泉と泰明はそのまま走り去るあかねを追って左大臣家へとやってきていた。  永泉は早速事の次第を藤姫に説明する。  泰明はといえば…  同じく左大臣邸内の一角。地の青龍のもとへと足を運んでいた。  「なんだ、泰明。今日はあかねと一緒じゃなかったのかよ」  「先ほどもどったのだ」  「そうなのか?」  泰明の突然の訪問になにやら不穏な空気を感じながらも天真は向き合った。  「天真、教えて欲しいことがある」  「…珍しいな。なんだよ」  「えっちとはいったいなんだ?」  そう振り返り問う泰明の頬には赤い手形がついていた。                          
FIN. < Copyright(c) Kanon Sarasa. 2002. / Site「 プチカフェ 」>





「プチカフェ」さらさかのんさまが配布していらした、
泰明さんフリー創作を戴いてきました。

やはりというかなんというか…。
京ではスカート姿はただ「珍しい」だけでは済まないもの、なんですよね(笑)。

八葉それぞれの反応がいかにも、という感じで、
読みながら思わず笑ってしまいました。

特に、友雅さんの含みのある反応が何とも言えません…!!


でもやっぱり無自覚にとんでもない事をやらかしてくれる泰明さんが
一番「問題あり!!」なんでしょうね〜。
怒って遠慮無く泰明さんをびんたしちゃうあかねちゃんもすごい(笑)。

永泉さんのおろおろぶりが目に浮かぶようです。


そして泰明さんが真面目に「えっち」の意味を聞きに行く辺りが
なんだかとっても可愛かったですvv


かのんさん、素敵な創作をありがとうございましたvv



by.陸深 雪



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