出逢い







夕暮れの渡殿・・・・・・・・・

柱にもたれ、あかねはぼんやりと夕暮れ色に染まる西の空を眺める。

この京という世界に召還されてから、すでに1年・・・・・・・・・・・

長かったような・・・・・・短かったような・・・・・・・・・そんな1年間だった。

鬼との戦いを無事に終え、そして龍神の神子としての勤めを終え・・・・・・・しかし、あかねは今だこの世界へと残っている。



彼のもとに残るため・・・・・・・・

彼と一緒に生きていくため・・・・・・・・・・

この先ずっと・・・・・・彼の傍にいたいから・・・・・・・・・・・・








◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆









日も西の空へと傾きかけた頃、あかねと泰明は北山に到着した。

今日の散策には、本当は泰明の他に永泉もいたのだが、またいつもの如く泰明の冷たい物言いに永泉は落ち込み、そんなところにさらに泰明のとどめの一言が入った。



『やる気がないなら、先に帰れ』



もちろん、永泉にやる気がなかったなんてことはない。

何か自分に出来ることはないか・・・・・・・・・・・・

頼久のように剣術に長けているわけではない。

泰明のように特別な術が使えるわけではない。

しかし、自分に出来ることがあるなら、精一杯八葉としての勤めを果たそう・・・・・・・永泉は常にそう自分に言い聞かせていた。

しかし、そんな永泉にでさえ、泰明はやはり冷たい。

そんな泰明を、少なからずあかねも八葉の中で苦手な人物だと思ってはいた。

必要最小限のことしか話さない。

話かけても冷たい視線を向けられることが多い。

ふと、自分は嫌われているのだろうか・・・・・・・そんなことを永泉でなくとも考えてしまいそうで・・・・・・・・・・・・

「えっと、泰明さん、さっきのは永泉さんに悪いですよ。永泉さんも一生懸命やってるんだから。」

そう言うあかねを、泰明はちらっと一瞬だけ見る。

そして、すぐにその視線は前方へと戻される。

「何がだ。」

「何がって・・・・、永泉さんもちゃんとやる気はありますよ。それを帰れって意地悪なことばっかり言って・・・・・」

そして、あかねは泰明の正面へと回る。

「ちゃんと、皆と仲良くしてください。」

そう言うあかねを泰明は不思議そうに見た。

「なぜ、他の者たちと親しくせねばならない?」

「なぜって・・・・・」

そう尋ねる泰明に、あかねは困ったように言葉が止まる。皆で気持ちをひとつにして、そして、これからの戦いに向かっていきたい・・・・・・そう心の中ではわかっているのだが、この気持ちをどう伝えればいいのか、一瞬、あかねは悩んだ。

「私は神子の道具だ。別に他の者たちと親しくなどせぬとも、神子が使いたいように使うがいい。」

泰明はいつもの無表情で、そう、言葉を続ける。



『神子の道具なのだから』

『私は造られたものだから』



この言葉は、泰明から何度か聞いていた。

その度に、あかねの心には何かが引っかかる。

もちろん、道具などと思ったことなどない。

造られたということが、事実だったとしても、そんなものは関係ない。

泰明は泰明で・・・・・・それ以外の何ものでもないのだから・・・・・・・・・・・・



「何度も言ってるけど、私は泰明さんのことを『道具』だなんて思ったことはありません。」

あかねは真っ直ぐに泰明を見つめ答える。

そんなあかねを、泰明は怪訝そうに見た。

「だって・・・・・そんなこと思えないもん・・・・・・・・」

じっと冷たい視線のまま、自分のことを見る泰明の視線に耐えられないかの如く、あかねは俯きながら小さく呟く。

道具などと思えるはずがない。

皆、かけがえのない仲間で・・・・・・・・・・

皆、かけがえのない親友・・・・・・・・・・

この京という世界で出会った大切な人たち・・・・・・・・・・・

「・・・・・神子は不思議だな。」

泰明のその声に、あかねは恐る恐る顔を上げる。

そして、そこには、優しく微笑む泰明の姿があった。

ほんの一瞬・・・・・・・・・・・・

あかねが視線を上げた瞬間に、ちらっとだけ見えた泰明の笑顔・・・・・・・・・・・

それはいつもの泰明からは想像も出来ないもので・・・・・・・・・・・

今までの泰明への冷たい印象が、一気に崩れていくような・・・・・・・そんな気がした。

まるで、その笑顔に自分の心が惹かれていく感覚がわかるようで・・・・・・・・・・・・

「や、泰明さんの方が不思議です。」

自分の頬が赤く染まっていくことがわかる。

再び俯いたあかねに、泰明は軽く微笑みながら言った。

「そうか?」








◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆









「絶対そうだよ!」

一人1年前の出来事を思い出しながら、つい力んで声の出てしまったことに、あかねは苦笑する。

西の空を赤く染める夕日を見つめながら、あかねは『ふぅ・・』と大きく息を吐いた。

1年前、誰がこうなることを気づいていただろう?

誰もわかる者なんていなかったはずだ。

いつの間にか泰明に惹かれ・・・・・・・そして泰明も同じようにあかねに惹かれ・・・・・・・・・

造られたものだからとか・・・・・・そんなこと、もう二人には関係のないものになっていた。



一緒にいたい・・・・・・・・・・

離れたくない・・・・・・・・・・・



その二つの気持ちがあったらから、だからこうしてあかねは京へと残った。

離れることなど出来ないのだから・・・・・・・・・・・・




「あかね、何をしている?」

その声にあかねは振り返る。

泰明の姿に、あかねは嬉しそうに微笑み、そしてあかねが立ち上がると泰明は両手を軽く広げあかねへと差し出す。

その見た目よりもずっと広い泰明の胸へとあかねはすっぽりと収まり、1日の仕事から戻った愛しい人の温もりを確かめる。

「お帰りなさい、泰明さん。」

泰明から微かに香る菊花の香・・・・・・それがあかねには心地よく感じる。

「こんなところに座り込んで、あかねは何をしていたのだ?」

ゆっくりとあかねを腕の中から開放し、泰明はあかねに尋ねた。

「えっとね、泰明さんと出会ったばっかりの頃のこと、思い出してたんです。」

そう答えるあかねを泰明は不思議そうに見つめる。

「初めて泰明さんの笑顔を見た時のこと。」

あかねはそう言って微笑んだ。






そう・・・・・あの日、あの時から・・・・・・・・・・・

私はあなたに惹かれていったのかもしれない・・・・・・・・・・

あの笑顔を見た、その瞬間から・・・・・・・・・・・・






「そういえば、泰明さんは私のこと初めて見た時、どう思いました?」

あかねはそう言い、泰明の着物の袖をきゅっと掴む。

そんなあかねを、泰明は不思議そうに見て、そして少し考え込んだ。

「そうだな・・・・・・龍神の神子なのか・・・と思った。」

「なっ・・・!」

もちろん泰明に『可愛いな』とか『きれいだな』とかそういう風に思ったと嘘でも言ってくれという方が無理なことだろう。

『ぷぅ』と頬を膨らませながら泰明を軽く睨みつけ、そしてあかねは『ぷいっ』と泰明に背を向ける。

そんなあかねを泰明は優しく微笑みながら見つめ、そしてそっと後ろから抱きしめた。

「しかし・・・・」

静かに語りだした泰明の言葉にあかねは耳を傾ける。

「龍神の神子だとしか思っていなかったはずなのに、いつの間にかあかねのことばかり考えるようになっていた。」

両肩から回された泰明の腕を、あかねはぎゅっと握り締める。






そう思ってくれただけで・・・・・・それで十分・・・・・・・・・

今が幸せだから・・・・・・・・・・・

今、この瞬間が幸せでたまらない・・・・・・・・・・・・・






「私も、泰明さんのことばっかり考えてました。」

嬉しそうに微笑みながら、あかねはそう答えた・・・・・・・・・・・・・・









赤く・・・・・・すべてを赤く染める夕日・・・・・・・・・・・・

泰明とあかね・・・・・二人を優しく照らす。






長かったような・・・・・短かったような、そんな一年。

あなたと共に過ごし、幸せな毎日を過ごし・・・・・・・・・・・・

これからの一年も・・・・・・その次の一年も・・・・・・・・ずっとあなたといたいから・・・・・・・・・・

ずっと一緒にいたいから・・・・・・・・・・・・






微笑み、そして少し照れながらあかねは再び振り返り泰明の胸の中へと顔を隠す。

そんなあかねを、泰明は優しく包み込んでいた・・・・・・・・・・・・・








■□ 終 □■


サイト1周年、ありがとうございますvv
フリー創作、第2弾は泰明さんです〜♪(≧∇≦)
話の流れ的には第1弾の友雅さんと同じく、
あかねちゃんに1年前、泰明さんと出会ったばかり(?)
の頃を思い出してもらいましたvv
ええ、キーワードは『初心に戻る』ですから(爆)

本当に1年間、ありがとうございました!!
これからも、頑張っていきたいと思います。
よろしくお願いします〜♪



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