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――― § “ …――――― き、さ…” 朧な、闇の狭間を漂う意識に、微かに涼やかな声音が響く。 …それは、目醒めを誘う優しい旋律。 想い、温もり、慈愛…。 幾多の温かなものが 緩やかに ――― そして密やかに。 それはまるで天より降り注ぐ陽射し、 空高く吹き抜ける風、 甘く薫る花、 深緑の森を鳴き渡る鳥、 宵闇を照らす明るい月…。 ――――― 私を取り巻く全て。 そうして私を包み込む温もりは、 胸の胎に固く凍りついていた心を潤し、 少しずつ花開いてゆくかのように、ゆっくりと綻ばせ…。 そして…。 ―――――――― 光が、生まれる。 § ――― と。 …ふ、と。 柔らかな指先が、彼の額に触れた。 それは決して過つ筈の無い、愛おしい感触。 吐息の音すら聞こえそうなほどに近く感じられる気配に、泰明は仄かに微笑する。 開いた己の双眸が、最初に映す光景への暖かい予感に、胸を震わせながら。 この瞳を開けば…その先にお前がいるのだろう。 泡沫の 確かな温もりを湛えた 私が目醒める時を待ちながら ―――…。 そして、呼ぶのだ。 誰よりも優しく、甘く滲み入る水の流れの如きその聲で。 “ …――――― 泰明さん…” 『 ――――― 神子 』 脳裏に柔らかに響いたその聲に応えるかのように。 泰明は己の胎でそっと囁く。 彼を捉えて離さぬ、深く輝く翠の瞳の持ち主を。 自身の心の向かう先 ――― 瞳を合わせたその刻に 花のような微笑みを、思い描いて。 『 …―――――――― 今、お前に ――――――――… 』 そして。 ゆっくりと、澄んだ色合いの瞳が開かれる ―――――…。 【 FIN.】 2003.5.12(MON)UP. 【 +++ To 神奈さま +++ 】 < Written by Yuki Kugami. 2003. / Site 【 月晶華 】 > & < Illustration by Kanna. 2003. / Site 【 One-Sided Love 】 >
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