――― 暁闇 ――― § ――― 天頂にかかるのは、望を少し過ぎた居待月。 その月影は、時折、轟々と音を立てて頭上の遙か高みを足早に駆け抜けてゆく流雲に遮られ、不安定で朧な光を彼の白く、怜悧な横貌に 頬に触れる風は秋の夜だというのに何処か生ぬるく、湿り気を帯びて絡みつく。 ――― 暗陰に凝り、たゆたう、漆黒の闇。 昏く濁り、澱んだ気配。 獲物を狙う、貪欲で凶暴な意思。 …不浄の匂い。 さしたる力も無い しかし、気を緩めれば、肌から浸みこんで徐々に裡から侵蝕してゆくかのようなその不穏な空気は、既に慣れたものとは言え、やはり不快なものでしかない。 …尤も、そのような感慨など持ってみた処でどうなるものでもないのだが。 そんな事を考えながら周囲の様子を探っていたその柳眉が、…ふ、と顰められる。
…否、それとも今、改めてこのような事を思うのは、何よりも清浄な気配を知ってしまったからなのか。 それはこの世の総てに愛される、春の陽の如き温かさと優しさに充ち満ちた存在。 ともすれば過剰な陰の気に引き込まれかねない自分に惜しみなく降り注ぐ、唯一の光。 …――――― 神子。 脳裏を過ぎった面影に、泰明は瞳を伏せると、涼やかな目元を和ませる。 形の良い唇に、知らず柔らかな淡い微笑が浮かんだ。 それからすう、と静かに息を吸い込むと、胸元に連なる連珠に手をかけ、己の意識を研ぎ澄ませる。 ――― 一瞬の後、開かれたその双眸には不敵な光が煌めいていた。 【了】 2003.9.14(SUN)UP. 2004.6.2(WED)転載. < Written by Yuki Kugami. 2003 -. / Site 【 月晶華 】 > & < Illustration by Tama. 2003 -. / Site 【 星の巡り 】 > +++++++++++++++++++++++++++++++++++ 【 星の巡り 】のたまさまが企画おえびに描き描きして下さった泰明ですv (時間帯はズレますが)まるで逢魔が時のような、 どこかひやりとした不思議な空気が漂うような…。 「目に見えない何か」の力や存在が感じられるようで凄くステキです^^ そんな雰囲気に触発されて浮かんだぷちSS…なんですが、 微妙な出来で大変申し訳なく〜;; たまさん、素敵な泰明をどうもありがとうございました/// +++++++++++++++++++++++++++++++++++ |